従来の地理情報システム(GIS)は地理的に分散した資源の効率的な利用やマーケティング等を目的として広く利用されてきたが,今後は個人による日常的な用途での利用が普及していくと考えられる.本研究では地図と地域情報コンテンツを認知的属性を通して統合させる手法として,認知地理情報システム(Cognitive Geographic Information System, CGIS)の新しい枠組みを提示し,それに基づく地域情報検索システムの開発を行なった.ウェブに蓄積された膨大な量の地域情報コンテンツの存在によって,地域情報検索のあり方が大きく変わっていくことが予想される.例えば,「京都駅の近くで紅葉が美しく,京料理も食べられるところ」といった質問に対しては,従来のGISでは十分に答えることができなかったが,ウェブに存在する地域情報コンテンツを統合的に利用することによって,ユーザにとって満足のいく情報を提供することが可能になる.
基盤モデル:
ウェブユーザは特定の地域に対して共通の概念を持つという前提をおく.これによって,ウェブコンテンツを利用して,特定の地域を特定の概念と結びつけることが可能になる.ウェブマイニングを用いてページ中で重要な役割を占める名詞を抽出できるが,それによって作られる名詞空間を地名空間(G-Words)と非地名空間(N-Words)に分ける.地域情報検索ならびに分析は,ウェブ空間・地名(地域)空間・非地名(キーワード)空間の相互の関連を利用した情報検索/地域分析と捉えることができる(図1).

図1.ウェブ空間,地名(地域)空間,非地名(キーワード)空間の関連
プロトタイプシステムKyotoSEARCH-I(図2)では,地図・地名(地域)・ウェブの三層がシームレスに統合されており,ユーザは各層を行き来しながら検索を進めることができる.本システムの特徴はインタラクティブな地図インタフェースと詳細な概念ナビゲーションインタフェースにある.ユーザは地理情報空間ならびに概念空間内の情報のネットワークを通して,任意のウェブコンテンツにアクセスすることができる.
本システムを従来のウェブ検索システムと比較した場合,地図インタフェースと概念ナビゲーションインタフェース(キーワード関連図)の結合に特色がある.ユーザは図2(右)に示すようにG-WordsとN-Wordsのキーワード集合間を相互に行き来しつつ検索を進めることができる.ユーザが概念ナビゲーションインタフェースで地名を指定すると,地図インタフェース上にその地名を含む領域が表示される.また,地名以外のキーワードを指定すると関連するウェブページの一覧が表示され,詳細な情報をウェブから検索し,表示することが可能である.本システムはウェブ上で公開され,広く利用されている.またJavaで記述されたポータブルなシステムとして設計されており,他都市への転用も容易である

図2. KyotoSEARCH-I のユーザインタフェース(左)および
概念ナビゲーションインタフェースにおけるフォーカスの変化(右)
文献:
Ryong Lee, Hiroki Takakura and Yahiko Kambayashi. Visual Query Processing for GIS with Web Contents. The 6th IFIP Working Conference on Visual Database Systems,2002.
Ryong Lee, Yohsuke Inoue, Taru Tezuka, Naoharu Yamada, Hiroki Takakura, and Yahiko Kambayashi. Kyoto SEACH: A Concept-based Geographic Web Search Engine. Proceedings of 2002 IRC International Conference on Internet Information Retrieval, pp.119-126, 2002.
連絡先:
京都大学 社会情報学専攻 手塚太郎 tezuka at dl.kuis.kyoto-u.ac.jp
横田裕介 yyokota at i.kyoto-u.ac.jp