本実証実験は現実空間での環境体験学習と擬似空間を利用したメディア学習の融合を目的とする.これまでに先駆的におこなわれている体験学習や環境教育を参考にして野外学習支援システムの構築をおこなってきた.現実空間での体験学習を支援するため,携帯情報端末(PDA)とGPSによる学習情報の配信,無線LANを用いた位置情報を含む観察情報の交換等の機能をもつシステムを構築した.また,メディア学習のための仮想空間構築を全方位カメラによりおこない, 仮想空間で間接体験学習できるシスムを構築してきた.これらのシステムの評価をおこなうため実証実験を行った.
1. PDAによる体験学習の実証実験
PDA (カシオE2000) を用いた野外体験学習の実証実験を2002年7月京都大学上賀茂試験地で行った.実験は20代から60代までの各年代男女各6人,計60人を被験者として,1グループ10名を単位に6回実施した.最初に実験の概要説明,事前アンケート,機器の取り扱い説明を行い,約30分間自由行動形式で野外学習を行った.その後,事後アンケートを行った.野外学習では被験者は地図上に自分の位置が表示されているPDAを参考に学習エリア内を自由に散策する.14ヶ所設けた学習ポイントに近付くと,アラームがなり,学習対象物がPDA画面に表示される.見つけることができたと応答すれば,学習コンテンツが表示され,それらを読むとともに,それに関連したクイズに回答する.また,いくつかの学習ポイントでは観察結果を手書きメモで記録し,サーバーに無線LANを通して送信する.サーバー側では被験者の位置,学習教材の閲覧,クイズの回答,メモなどの行動・通信記録を収集管理する.サーバー管理者は必要に応じ,PDA側に個別あるいは全員へのメッセージを流す.また,被験者が送信してきたメモなどを新たな教材としてアレンジし,全ての被験者に送信する.図1は実験風景である.
事前・事後アンケートを全体的に見れば75%の被験者が「やや良い」以上と評価している.教育性(学習効果を高める仕組みや教材が備わっている)の視点では90%以上の人が高く評価した.一方,可搬性,信頼性,機能性については20%前後の人が「やや悪い」以下の厳しい評価をした.これはPDAとGPSが個別の機器で,ケーブルなどが行動の妨げになるなど、野外での行動に耐えるには不十分だったためと考える.
2. 仮想空間での実証実験
仮想空間を用いた間接体験学習の実証実験は2002年9月京都大学で行った.野外における実証実験と実験環境を同じにするため,野外実験と同じ場所を,おおよそ2mおきに全方位カメラで撮影し,それらを補間することで,仮想空間を構築した.また使用する学習教材,被験者の構成も同一とした.実験では最初に概要説明,事前アンケート,仮想空間での操作説明と練習を行った.その後約40分間自由に仮想空間での学習を行い,事後アンケートを行った.仮想体験学習では被験者がPC上の仮想空間を自由に散策する.学習コンテンツが貼られている地点に近付くと,アラームが鳴り,指定された学習コンテンツを画面上で探索し,クリックすると学習画面が表示される.教材の閲覧,クイズへの回答,観察記録の送信など野外におけるPDAの実験と同様な機能を用いて学習を行う.サーバーは個々のPCとネットワークを通して接続されており,行動・学習記録などを収集した(図2).
野外実験の場合と共通性を持たせた事前・事後アンケートでは,全体的に見れば65%の被験者が「やや良い」以上の高い評価している.教育性は80%以上の人が高く評価しているが,視覚性では「やや悪い」以下の厳しい評価が35%もあった.これはPCの処理速度に起因していると思われる.一方,VRMを用いた仮想空間での環境学習についての検討もおこなった.システム的には可能であるが,通信インフラが,実利用への可能性を左右していることがわかった.
文献:
岡田昌也, 吉村哲彦, 垂水浩幸, 守屋和幸, 酒井徹朗. DigitalIEE: 分散仮想空間による協調型環境教育支援システム. 電子情報通信学会誌,Vol.J84-D-1 No.6,pp.936-946,2001.
Masaya Okada, Hiroyuki Tarumi, Tetsuhiko Yoshimura and Kazuyuki Moriya. Collaborative Environmental Education Using Distributed Virtual Environment Accessible from Real and Virtual Worlds. Applied Computing Review. Vol. 9, No.1, pp.15-21, 2001.
岡田昌也,山田暁通,吉田瑞紀,垂水浩幸,粥川隆信,守屋和幸. 現実・仮想経験拡張型システムDigitalEE IIによる協調型環境学習. 情報処理学会,Vol.45,No.1,pp.229-243,2004.
阿部光敏,長谷川直人,木庭啓介,守屋和幸, 酒井徹朗. GPS・PDAによる自然観察のための資料提示システム. 日本教育工学会論文誌,Vol.28,No.1,pp.39-47,2004.
Mitsutoshi Abe, Tetsuhiko Yoshimura, Naoki Yasukawa, Keisuke Koba, Kazuyuki Moriya, Tetsuro Sakai. Development and evaluation of support system for forest education. Journal of Forest Research, Vol.9, 2004.
連絡先:
京都大学 社会情報学専攻 酒井徹朗 sakai at i.kyoto-u.ac.jp