オークション

概要

オークションは,古くから美術品取引などに用いられてきました.近年,インターネットオークションの出現により、より多くの人がオークションを利用するようになってきています。さらには,検索サイトを利用したりブログを閲覧したりする際に,掲示される広告を決めるのにもオークションが用いられるなど,オークションは社会の中で広く用いられるようになってきています.一方で,システムが複雑化するに従い,売り手にとっては適切な販売方式の選択が,買い手にとっては適切な入札方法の選択が難しくなってきています.実社会での利用の拡大に伴い,学問的にも,オークションは経済学・ゲーム理論と情報科学の境界領域として大きく発展してきています.石田・松原研究室の情報経済グループでは,メカニズムデザインの技術を用いて,オークションの参加者の振る舞いを分析し,より良い販売・入札方式を設計することを目指しています.

これまでに,私たちは,ヤフー株式会社からYahoo! JAPAN オークションのデータ提供を受け,即決価格というオプションの存在が取引全体に与える影響を分析しました.また,株式会社マイクロアドからディスプレイ広告オークションのデータ提供を受け,入札データを分析した上で,マルチエージェントシステム技術の一つである市場モデルを用いた入札方法を提案しています.各研究の概要については,下の研究内容をご覧ください.

研究内容

インターネットオークションにおける即決価格の研究

インターネットオークションにおいて,即決価格(buy-out price, buy price) の利用が増加しています.即決価格とは売り手によって設定され,買い手が即決価格での入札を行えば,オークションは即終了し,買い手はその価格で商品を購入することができます.ここで,売り手が開始価格と即決価格を同額に設定すれば,実質的な固定価格販売となります.これまでも,オークションと固定価格販売の優劣が議論されてきましたが,両者が同時に存在する場合にどのように影響しあうかは十分議論されていませんでした.

本研究では,Yahoo! JAPAN オークションを運営するヤフー株式会社から提供を受けた11,921件のオークションデータの解析を行い,売り手の主要な戦略として,(戦略1)即決価格を設定せず,非常に低い開始価格を設定する,(戦略2)即決価格を設定し,開始価格を即決価格とほぼ同額に設定する,の2つが存在することを明らかにしました.また,ゲーム理論の観点から解析行い,買い手が商品の購入失敗リスクを回避しようとする傾向が高いとき,一方の売り手が即決価格を設定すれば,もう一方の即決価格を設定しない売り手の収入も増加するという関係があることが明らかとなりました.この知見は,売り手に対する即決価格設定支援などに活用することができます.

(本研究はヤフー株式会社との共同研究です.)

図:即決価格設定なしのオークション(左図)と
即決価格設定ありのオークション(右図)の開始価格の分布

 

図:即決価格入札が行われる場合(左図)と行われない場合(右図)のモデル

広告オークションにおける仲介者としての入札戦略の研究

近年Web広告の一種であるディスプレイ広告がオークションを用いて取引されるようになってきています.ディスプレイ広告とは,Web ページの一部として埋め込まれて表示され
る画像や動画などによる広告で,メディア(広告媒体)が売り手,広告枠が商品,広告主が買い手とみなせます.このオークションの特徴は、買い手である広告主が直接入札するのではなく,DSP (Demand Side Platform)と呼ばれる仲介者が行う点にあります.DSPは複数の広告主をクライアントとして持ち,各広告主が持つ予算等の制約を満たすように広告主に代わって入札します.オークションに関する研究は多く存在しますが,このような仲介者としての効率的な入札戦略は自明ではありませんでした.

本研究では,一日に何回も同じ広告枠が販売される(複数ユニット),一つの広告が複数の広告枠に掲示される(複数アイテム)という特徴を考慮した経済モデルを作成して,実環境で観測される勝率変動に説明を与えました.また,マルチエージェントシステム技術の一つである市場モデルを用いることで,効率的な入札額決定法を提案しました.シミュレーションを用いた評価では,30%近く広告掲示数を増加させることに成功しています.

(本研究は株式会社マイクロアドとの共同研究です.)

主な研究成果

[Conferences]
Hiromichi Araki, Shigeo Matsubara and Yuko Sakurai: Analysis of an Internet Auction Market where Ascending Auction and Fixed Price Selling Simultaneously Exist. Web Science Conference 2010 (WebSci’10), Poster Session, Proceedings of the WebSci’10: Society On-Line, WSRI, Raleigh, North Carolina, USA, April 26th, 2010.
Zhixing Huang, Yuhui Qiu, Shigeo Matsubara. Designing a Refundable Auction for Limited Capacity Suppliers.Third International Conference on Semantics Knowledge and Grid (SKG-2007), pp.104–109, 2007.
Ahlem Ben Hassine, Shigeo Matsubara, and Toru Ishida. A Constraint-based Approach to Horizontal Web Service Composition. The Fifth International Semantic Web Conference (ISWC-2006), pp.130-143, 2006.
Shigeo Matsubara. Auction in Dynamic Environments: Incorporating the Cost Caused by Re-allocation. The 4th International Joint Conference on Autonomous Agents and Multiagent Systems (AAMAS-2005), pp. 643–649, 2005.
Shigeo Matsubara. Trade of a Problem-solving Task. Proceedings of the 2nd International Conference on Autonomous Agents and Multi-Agent Systems (AAMAS-2003), pp. 257–264, 2003.
Shigeo Matsubara. Accelerating Information Revelation in Ascending-Bid Auctions – Avoiding Last Minute Bidding -. In Proceedings of the Third ACM Conference on Electronic Commerce (EC-01), pp. 29–37, 2001.
[Symposiums and Workshops]
斎藤陽介, 松原繁夫:ディスプレイ広告オークションにおける仲介者としての入札戦略.情報処理学会第75回全国大会, 3ZD-7, 2013.
荒木博道, 松原繁夫, 櫻井祐子:競り上げオークションと固定価格販売が混在する電子商取引市場における売り手の行動の解析.情報処理学会創立50周年記念(第72回)全国大会, 2010.
[Journals]
松原繁夫. 動的環境におけるオークション‐再割当て費用の組み入れ.情報処理学会論文誌, Vol. 47, No. 4, pp. 1340–1348, 2006.
松原繁夫. 問題解決タスクの取引. 人工知能学会論文誌, Vol. 18, No. 5, pp. 269-277, 2003.
Shigeo Matsubara and Makoto Yokoo. Defection-free exchange mechanisms based on an entry fee imposition. Artificial Intelligence Journal, Vol. 142, No. 2, pp. 265–286, 2002.
松原繁夫. 競り上げオークションにおける情報顕示の促進. 人工知能学会論文誌, Vol. 16, No. 6, pp. 473–482, 2001.
松原繁夫. 結託に頑健な適応的価格設定法. 人工知能学会論文誌, Vol. 16, No. 4, pp. 375–383, 2001.
松原繁夫, 横尾真. 不正行為を防ぐ電子商取引メカニズム. 人工知能学会誌, Vol. 15, No. 5, pp. 912–921, 2000.
[Patents]
オークション出品価格設定支援装置.特許第5595168 号